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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2713号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人河原太郎の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。なお所論について考えてみるに、不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主はその不動産を占有するものと解すべく、従っていわゆる二重売買においては横領罪の成立が認められるとする趣旨は、大審院当時くりかえし判例として示されたところであり、この見解は今なお支持せられるべきものである(例えば大正一一年(れ)第五号、同年三月八日判決、刑集一巻一号一二四頁。昭和六年(れ)第一七七六号、同七年三月一一日判決、刑集一一巻一六七頁。昭和七年(れ)第二四二号同年四月二一日判決、刑集一一巻三四二頁等参照)。本件について原判決の是認する第一審の確定した事実は、被告人は判示のように本件山林を浜田軍治に売却したのであるが、なお登記簿上被告人名義であるのを奇貨とし、右山林をさらに西村梅吉に売却したというのであるから、原審が横領罪の成立を認めたのは相当であってなんら誤はない。所論は情状または右と反する法律上の見解に立って原判決の事実認定を非難するに帰し、採用することはできない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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